ストーリーやし


マンガ原案「老人と狐火」

老人は散歩していた。

老人の散歩道は誰も通らない原生林。

春はワラビやフキが生え、菜の花が咲き、チョウチョが舞う。野鳥が巣を作り、ヒナを育てる。

夏はクヌギの大木にたくさんの虫がくる。カブトムシやクワガタは自然の栄養で大型化していた。

秋は栗の実や山芋をとる。

冬は椿の実を拾いに行く。老人の名は無吉。

こんな老人の行動に誰が関心もつだろうか。

しかしこの老人ほど自然と触れ合っている者はいない。

開発に侵されない自然がこの村には残っているのだ。

この村は三つの山に囲まれ、外界とは閉ざされた環境にあった。

村特有の伝統もあった。

この村の名は狐塚村。

昔自然とともに人と動物が暮らしていた頃、村人は狐を神としてあがめていた。祭りになると狐火を灯し、一晩中踊りほうける。

頭に尖った耳をつけ顔を黄色と白に、鼻を赤く塗り、3本の髭を描いた。

村の長老が作ったドブロクを「狐入り」と呼び、幻想に任せて体をくねらせる。

その様をみて『狐に騙される』とう言葉が生まれた。

『狐に騙される』というのは正気を失うという意味としても使われる。それには秘密があった。

村を守る聖地の森。ここには神椿と呼ばれる椿の木がある。

ここに近づけないための警告として使われていた。

昔の言い伝えを守り、昔ながらの生活を送っているのは今やこの老人だけになってしまった。

村人は外に仕事を求めて去って行く。

残された者も、既に伝統を守るどころか忘れてしまっている。

自然は触れ合えばそれに答えてくれる。

老人の巡る場所だけは自然のきらめきにあふれていた。

中でも椿の木は見事であった。

冬が抜けると真っ赤な花と真っ白な花を咲かせる。

やがてそれは実となって老人の足下を埋め尽くした。

老人はその椿の実で油を作る。

神木とされる神椿にも実がなる。その実から採れる油は特別の力があった。

その油の力を知ったものがいる。

山向こうの巨大商社ドッペル・ダッチだ。

先祖はこの地を追われた支配層の地主。

追われる間際、神椿の実のカケラを盗んでいた。

分析してみるとそれは次世代のエネルギーといえるような力だとわかった。

密かにその場所を突き止めようとしたがその都度、自然の仕打ちにあって目的を果たせなかった。

最後の手段といてドッペル・ダッチは悪徳政治家と手を組む。

金の力と政治の力でこの土地を手に入れようとしていたのだ。

数年後、老人はかなりの歳になっていた。

自分でもいくつになったかわからないくらい、しかしなんとか生きながらえている。

まるで何かの力に守られているように。

ある日、村に地面を揺るがす重機の音が響いた。

一部の村びとが土地を売ってしまったのだ。

昔の思い出の風景がどんどん壊されて行く。

どこからか宣伝カーが走りまわる。

「みなさん、こんな土地は売り払って便利な生活を求めて外に出ましょう」

それに同調して村びとは一人去り、二人去り、ついにはすべての人々が村を去って行った。残るは老人だけ。

老人はひとりで砦を築きたてこもっている。

どんな環境にあっても自然とならば生き物は生きて行ける。

自然と一体になったものは強かった。

業者と老人の戦争が始まった。

油屋は政府を味方につけ、政治的圧力で強制執行に出てきた。

ついに神木の椿を倒し、持ち帰ってしまった。

そして造成開発の名目で全ての家を潰してしまう。

村には何もない。

老人の家があるだけ。

老人は政府転覆を図った犯罪人として手配された。

ダッチの策略だった。

老人は戦う。

どんな攻撃にあっても耐えていた。

それは信じられないくらいの生命力。

なんどもなんども立ち上がる老人。

その姿は世界中が見ていた。

かつて出て行った住民もその姿に驚いた。

ものの限度を遥かに超えた頃、真実があきらかになった。

老人はとっくに命耐えていたのだ。老人を守っていたのはそのむかし人間と自然界が共に生きてあがめていた狐の神だった。

狐は寿老狐となり老人に取り付いていたのだ。

寿老狐は人間の横暴を許さない。

「ケーーーーーーン!」

一声吠えると渦巻く狐火となり、燃え尽きてしまった。

これまで見た事もない神々しい光景に人々は恐れをなす。

その直後。

静かに地鳴りが始まった。

“ドドドドドドドドドドドドドドド……”

地鳴りは強大な地震となり、大地が壊れ始めた。地殻変動がおこる。

地面は割れ、ガスと熱によってすべての生命がつきてしまった。当然すべての人類も。

あとは何も残らない。有毒ガスの世界。

長い長い年月が流れた。ガスで覆われたた大地には何も育たない。

何百年も何千年も有毒ガスに覆われた大地に奇跡が起こった。

老人が貯蔵していた椿油が有毒ガスと化学反応を起こしてガスの中でしか生きて行けない生物が生まれたのだ。

その生物は実体のない魂。

魂はそのガスの中では生きて行ける。

空中にさまよう魂は無限にあった。

魂はマシンを動かし機械社会を築く。

文明進化するしかない定めを持つ人間はコンピュータ社会を発展させて行った。生命はないがコンピュータは万能であった。

魂はタイムマシンを作り過去の人間に警告しようとした。しかし過去の人間はそれをUFOといって騒ぐだけでいまだにその警告に気付いていない。

河野やし